プレイヤーにとってそれは中毒性のとても強いオンラインゲームだった。
さらに付け足すならば催眠性も強かった。
一度このオンラインゲームを始めると、自分がパソコンの前に座ってアバターを操作していることを忘れてしまう。
いやそれどころか、オンラインゲームの世界以外のことはすべて忘れてしまうのだ。
一度始めてしまったプレイヤーはオンラインゲームが唯一の現実だと思っている。
オンラインゲーム内でのゲームオーバーは死を意味する。
死んだプレイヤーはアバターと共にこのオンラインゲームから消えてしまう。
そして一度死んだプレイヤーとアバターは二度とオンラインゲームには戻らない。
この世界では、ゲームオーバーになって死んでもなお意識は存在すると主張するプレイヤーもいるが、未だかつて誰も、死から蘇ったプレイヤーはいない。
さらには、別のアバターでプレイしたことがあるととんでもないことを言うプレイヤーもいる。
しかし一般的には、死ねば、それに伴いプレイヤーの記憶もデータもすべて消え失せると信じられている。
さてここで質問です。
プレイヤーはなぜこのオンラインゲームを始めたのか?
その答えは、
ゲームをプレイするのが楽しいからです。
あるときこの世界に別のオンラインゲームから来たという者が現われた。
オンラインゲームは、いま自分たちがプレイしているものだけしか存在しないと思っているプレイヤーには、それは信じがたい話だった。
さらにその者が言うには、オンラインゲームは無限に存在しており、さらにその世界観もまちまちであるとのこと。
しかも、オンラインゲーム内での死は大したことではなく、ゲームからログアウトして、パソコンの前に座っている本当の自分に戻るだけなのだと言う。
パソコンの前に座ってディスプレイでゲームを見ている自分が本当の自分?
それは、ゲームをプレイしているプレイヤーには、信じがたいことだった。