何のために人はこのオンラインゲームをするのだろう?
このゲームのプレイヤーである僕は、いつしかそんな妄想に憑りつかれてしまっていた。
ゲームは楽しむためにやるに決まっていた。
みんなそれが楽しいからこのオンラインゲームに参加したはずだった……。
しかし、僕はゲームが楽しくなかった。
このオンラインゲームには特に決まった目的はなかった。
各プレイヤーが自由に目的を見つけ、その目的達成を目指してプレイするのだ。
通貨をたくさん集めるプレイヤー、恋人をたくさんつくるプレイヤー、戦いに勝利することのみを目的とするプレイヤー、とにかく冒険が好きなプレイヤー、それぞれのプレイヤーがそれぞれの目的を見つけ、その目的達成のためにプレイをしている、それがこの世界のはずだった。
しかし、僕はまったく楽しくなかった。
いや、苦しくさえあった。
すべてがうまく行かなかった。
何をやってもうまく行かなかった。
だから途中からこのゲームは苦痛でしかなかった。
そして気がついた時にはすっかり、生きる目標を見失っていた。
ゲームの攻略本というのは存在していたし、誰でも手に入れることは出来た。
先に目的を達成した人々が、それらの本を出していた。
僕もそれらの本は数多く読んだことはある。
しかし一回としてなんらかの目的を達成したことはなかった。
攻略本に書いてあることはわかる。
しかし、僕にはやる気が起こらなかった。
やる気が起こらなかった理由は様々にあった。
ものすごい努力が必要であったり、他人を騙したり、他人を押し退けて目標を達成するのは、パスだった。
目標は達成したい、目標を達成すればみんなから羨望の眼差しで見られ、気分が良いだろう。
そして、次の新たな目標を設定し、それに向かって突き進んで行くのは、とっても楽しいことに思われた。
いや正確には、攻略本に書いてあることを、自分で実際にやってみたのだ。
できることはやってみた。ただ、続かなかっただけだ。
目標は達成したい。達成したらきっと楽しくなるだろう。
でも実際は、少しも目標へとは前進しない。
他のプレイヤーにはできるのに、なぜ僕には出来ないのだ?
攻略本だって途中で挫折だし……、そう考えるとひたすら自己嫌悪に陥るのだった。
そんな時だったその攻略本に出会ったのは。
その攻略本は、別のオンラインゲームでプレイしているプレイヤーが、このオンラインゲームのプレイヤーのアバターを借りて書いたものだった。
この世には、オンラインゲームはこのオンラインゲームしか存在しないのは常識だった。
このオンラインゲームだけがゲームであり、このゲーム内でゲームオーバーになるのは、死を意味するのは、どんなプレイヤーだって疑うことはしない。
だから、どう考えてもその本は胡散臭い本だったのだ。